
宮城県仙台市青葉区「香港幸福楼」
麻婆豆腐鍋 840円

その一 ~今宵、麻婆の鍋におぼれる男ひとり~
欅の緑が芽吹く4月の定禅寺通。 地下に潜る一軒の中華料理店へ向かった。
「香港幸福楼」。仙台ではよく知られた中華料理店の一軒である。料理長の衛漢全氏は、故郷香港で15歳の時から包丁を手にした生粋の料理人だ。香港聘珍樓から横浜聘珍樓へ移り、さらには仙台聘珍樓の料理長として、そのオープニングに尽力した後独立、現在の店を2001年に開業した。そんな衛さんの超一流の料理を「B級グルメ」で紹介するとは! という知人の意見もあるのだが、A級の技を駆使しB級グルメ的に安くおいしく、さりげなく食べさせてくれるところがこの店のすごいところだ。
さて、麻婆豆腐といえば、生まれて最初に食べたのは丸美屋食品のレトルトであった。そのあまりの真っ赤さに子供ながら衝撃を覚えたものである。
「…これ何?」そんなセリフすら覚えたあの日から、いくつかの真っ赤な恋と同じように、いくつもの真っ赤な麻婆豆腐を食べ、大人への階段を歩き、中年へとさしかかり、体に微妙な脂肪を蓄えつつ、運命の糸に操られるようにして出会ったのが、香港幸福楼の麻婆豆腐鍋である。華やかな香りと複雑に入り混じった辛味の競演、とろみの中に隠された抜群 の旨味、ひと目ぼれとはこのことである。たぶん、赤い糸で結ばれていたのだ。
花椒(ファージャオ)や唐辛子をたっぷり使うことは、麻婆豆腐では今や普通のことである。衛さんの麻婆豆腐がとことんうまい秘訣は「土鍋」にある。店には麻婆専用土鍋が用意されていて、これは、麻婆豆腐のオーダーが入るたび火にかけられ焼かれる。いわゆるチンチンの状態だ。そこに熱々の麻婆豆腐が注がれ、おいしさの大爆発が起こる。さらには毎回、熱々の麻婆豆腐に充たされ、焼きを入れられることを繰り返した土鍋には、その味が染みていき、得も言われぬ旨味と香りを生み出す名器へ変貌していくのであった。
さて、衛さんが日本人好みにと、とろみをつけた麻婆豆腐はいつまでも熱い。これもまた土鍋の利点のひとつ。そしてB級グルメ通ならば、〆にぜひとも食べたいのが麻婆丼だ。迷わず「ライス」をオーダーし、残っていた麻婆をかける。単品で食べていた時、痺れるような香りを放っていた花椒も、ライスと一緒だとまろやかになる。ほのかな甘味も感じられる。これまたうまい、うま過ぎるのだ。私と麻婆豆腐鍋との運命の赤い糸は、まだしばらく途切れることはないだろう。
……今宵もすばらしきB級グルメに乾杯!


















