
大人の夏休みには事情がいっぱい
小説家志望で無職の「僕」と父が、避暑地の山荘で過ごすひと夏の物語。ジャージ姿でのんきに夏を満喫する男ふたりには、しかしそれぞれ事情がある。東京に残り働いている「僕」の妻は職場に好きな男性がいて、父はというと三度目の結婚生活もどうやら芳しくないよう・・・。
このように、主人公の父子ふたりはあまり笑えない状況にいるのですが、深刻さなど微塵も感じさせない軽妙な会話や、ありふれた生活の描写など、長嶋有氏が書くと独特のユーモアがあり、肩の力を抜いて読み通すことができます。
また、登場人物が一人一人きちんと立っているところが魅力的です。近所に住む未亡人の遠山さん、父の友人の岡田さんなど、個々に物語や背景を予感させる脇役たちにも、好奇心をそそられます。
本作では男性が主人公なので、読者は長嶋有氏が男性であることに何の疑いも持たないと思うのですが、私は、女性が主人公の作品『泣かない女はいない』ではじめて長嶋有作品にふれてからしばらくの間、女性作家だと信じ切っていました。そう思い込ませるほどに、長嶋有氏は性別を超え、変幻自在に書き分けてしまいます。
夏が近づいてくると読みたくなり、読むと、今年の夏休みはコテージで過ごしたいなー、という気分になる一冊です。



















