
ちくま文庫
『太宰治全集 8』
太宰 治 著
/ ちくま文庫刊
「君、思い違いしちゃいけない。」
2009年は太宰治の生誕100周年ということで、続々と作品の復刊や映画化がされています。私は『人間失格』と、教科書に載っていた『走れメロス』しか読んだことがなかったのですが、この機会にと思い、今年映画化される二作品が収録されたちくま文庫太宰治全集の8巻を手に取りました。
この一冊には、昭和20年11月から22年3月にかけて発表された小説18篇と、戯曲2篇が収録されています。なかでも心に残ったのは、中篇小説『パンドラの匣』でした。
この物語は、「健康道場」という名の療養所で、結核の治療をしている青年が、親しい友人に宛てて書いた手紙という形式になっています。太宰治といえば『人間失格』のペシミスティックな印象が強く、『パンドラの匣』なんぞ、題名からしておどろおどろしい内容だろうと思っていたら、大間違いで、ひと言でいうと青春小説です。主人公の手紙には、青年らしい驕りや情熱、若々しい感情があふれていて、所々赤面してしまうような場面もありますが、展開の面白さがひときわです。また、療養所の登場人物ひとりひとりの言動が生き生きと描かれ、ユーモアにあふれています。
太宰治の作家生活では後期作品にあたり、初期の自虐的な作風とは打って変わって、太宰のエンターテイナー性、「道化」の部分が発揮された作品のように感じました。「かるみ」を意識したのだろうか、とも思われますが、3年後に自殺という最期を鑑みると、太宰自身の心に潜む相反する感情、分裂症的な性格を感じずにはいられません。
それにしても太宰という作家は、キャッチーな言葉遣いがとてもウマイなぁと感じます。冒頭から「君、思い違いしちゃいけない。」なぞと書かれたら、気になって気になって、読まないわけにはいきませんよね。

















