

『1Q84 BOOK3』
村上春樹 著 /新潮社 刊
現実と非現実の境界をめぐる冒険
2009年に出版され大ベストセラーとなった『1Q84 BOOK1、2』。発売直後から続編を望む声は多く、2010年春、ついに刊行された本作は、予想外のストーリー展開で読者をさらに惹きつけた。
BOOK1,2はコチラ
『Book2』の最終章において青豆は、現実の「1984年」とはねじれた世界、「1Q84年」のはじまりとなった場所、高速道路の非常階段があったはずの場所へ戻り、銃口を口にくわえた。そして天吾はまったく別の場所で、少女の青豆のまぼろしを目にした。ふたりは二度と再会することなく、「1Q84年」は「1984年」に戻ることなく幕を閉じた、かのように思われた。
しかし青豆は、拳銃の引き金を引かなかったのだ。教団「さきがけ」のリーダーを殺害した青豆が自殺することをやめたのは、ただひとつの心残り、天吾との再会を果たすためだった。
著者は「1、2を書き上げた時はこれで完全に終わりだと思っていた」と毎日新聞のインタビューに答えている。その言葉どおり、『Book3』はこれまでの2巻とは異なる展開を見せる。社会生活をすべて捨て去った青豆が、一人の女性としての感情を持って行動しはじめるからだ。そして物語は、天吾との再会を待ち望む青豆、青豆の足取りを追う教団の手先・牛河を含めた3人それぞれの視点から紡ぎ出される。
しかし果たして著者の言うように、物語は先の二冊で完結するはずだったのだろうか。『Book2』の後半において、全編のなかでもっとも象徴的な場面が描かれている。青豆がふかえりの父親である「さきがけ」のリーダーを殺害した同時刻、天吾がなかば夢うつつでふかえりと性交した雷雨の夜だ。『Book3』では、その夜に異なる場所で行われた対照的とも思える行為が密かにリンクし、物語の核となっている。
月がふたつ浮かぶ「1Q84年」の世界で起こるさまざまな出来事は、日常であるようで日常ではない。しかし、その世界に存在する暴力、殺人、人間性は決して非現実的なものではない。そして、私たちが現実だと信じている「1984年」を経た「この世界」のリアリティを定義するものは、なにもない。
村上氏の作品にはいわゆる「リアリズム」小説は少ない。しかしそれらの作品はすべて、「現実」と「非現実」との境界がいかに曖昧なものなのかを、読者に問いかけているのではないだろうか。


















