女川 |「果樹園cafe ゆめハウス」は、つながりを生み夢を叶える場所

    代表の八木純子さん

    宮城県女川町高白浜地区にあるカフェ「果樹園cafe ゆめハウス」。地元で採れた新鮮な野菜や魚介を使ったランチを味わえるほか、Tシャツを使った小物作りの体験教室なども開催しているお店です。
    こちらで働いているのは、60~80歳代の地元の女性たち。女性たちが出会い、共に働くきっかけとなったのが、カフェを運営する一般社団法人コミュニティスペースうみねこの代表、八木純子さんが企画した“布草履作り”です。

    はじまりは布草履つくり

    東日本大震災後、八木さんは、元保育士という経験を活かし、避難所で託児や物資の配布などを行っていました。活動を続けていくうちに、八木さんにひとつの想いが芽生えました。それは、「物資に頼っているうちは“生きる”ではなく、“生かされている”のではないか。これから私たちは“生きる”ことを目指さなければいけない」という強い想いでした。

    「生きるためにはなにが必要だろう」、思い浮かんだのは“仲間との出会いの場”と“働く場”の2つでした。ちょうどその頃は、避難所から仮設住宅への転居が進んでいた時期。慣れない仮設住宅での暮らしが影響し、部屋に閉じこもってしまう高齢者も多かったといいます。「みんなでなにかを楽しむきっかけ、生きがいを感じるものを作らなければ」。そのとき八木さんの目に止まったのは、余ってしまった支援物資のTシャツ。「全国からの温かい気持ちがこもったTシャツを活用しよう」。

    そうして2011年の秋、布草履作りが始まりました。布草履作りには仮設住宅に暮らす人だけではなく、在宅で被災した人たちにも声を掛け、50~80歳代の女性約60人が参加。Tシャツを細く切って、紐状にしたのち、太い編み棒でギュッギュっと編んでいく布草履。みんな初めて作るため、色の組み合わせが思っていた完成像と違っていたり、力加減が足りず型が崩れてしまったりと、すぐに上手に作ることはできませんでした。しかし、女性たちはみんな笑顔。「あんだのキレイだごと」「その色入れると格好良くなるね」と、お互いの布草履を見せ合いながら和やかな時間が過ぎていきました。上手にできることはもちろんうれしいこと。けれども女性たちにとっては、みんなで集まり、手を動かしながらわいわい楽しみながら仕事をする。そうした日常が、なによりうれしかったのです。

    その後、布草履は八木さんと女性たちの活動場所「うみねこハウス」や県内外各地のイベントなどで販売されるように。作り手それぞれの個性があふれる作品は、たちまち人気商品となりました。

    ランチは「女川の母の味」が楽しめます

    同じ頃、八木さんは、女性たち同様に被災して職を失った男性たちの様子も気にかかっていました。布草履作りはどうしても女性が中心になりがち。男性が活躍できる取り組みもできないかと始めたのが、畑と果樹園作りです。栽培するのは、知り合いの農家から作業に大きな負担がかからないと教えられた唐辛子、ニンニク、イチジク、小松菜。作業を担うのは、70歳代の男性3人組“papachans(パパチャンズ)”です。震災前は漁師として長年働いてきた男性もおり、未経験の畑仕事に戸惑うのではと心配したそうですが、野菜を鳥から守る防鳥ネットづくりでは、網を扱ってきた漁師ならではの手さばきを披露。また、野菜の栽培日記をつける人もいたりと、それぞれが楽しみながら、いきいきと作業を行ないます。

     男性たちの畑と果樹園作り、女性たちの布草履作りと順調に進むなか、八木さんが掲げた次なる目標は、多くの人が集える居場所作りです。果樹園の隣りにある、津波に遭いながらも同地区内で唯一残った八木さんの実家の倉庫を活用し、カフェをオープンすることを決意しました。八木さんの想いを知った人たちが県内外から駆けつけて協力し、2014年5月に開店。料理を担当するのはもちろん、布草履作りをしている女性たちです。残念ながら現在カフェは休業中ですが、ご飯と味噌汁に煮魚などの主菜、煮物やお浸しなどの副菜が3つも付いたボリューム満点のメニューにリピーターが続出。また、毎月第3水曜日にはサンマ形のたい焼き「さんまなたい焼き」の移動販売を実施(現在キッチンカー整備中のため休止中)。テーマソングまで作ったというから驚きです。

     震災以降、人とのつながりに支えられてきたと話す八木さん。その経験から、カフェは飲食を楽しむだけの場所ではなく、多くの人が出会い、つながる場にしたいと考えたそうです。たくさんの人が訪れるようにと、店内では女性たちによる布小物作りの体験教室や、papachansによる網を使ったストラップ作りなどを開催。カフェでの出会いをきっかけに仲良くなった人も多くいるのだとか。「これからもつながりを生み、女川からおもしろいことを発信していく!」と、八木さんは目を輝かせます。

    日常の何気ない喜びを大きな幸せに変える八木さんたちの活動は、これからも多くの笑顔を生み出しそうです。

    2021年3月時点での情報です。

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