東松島 |「めんどくしぇ」と感謝をこめて手作りする、ソックモンキー「おのくん」に会いに行こう

    「おのくんに会いに東松島市へ来てください。」と東松島小野駅前郷プロジェクト代表 武田文子さん

    とぼけた表情で、見る人の心をほかほかに温めてくれるぬいぐるみ「おのくん」。なんともいえないその魅力に心を奪われたファンも多く、今では全国から寄せられる注文は1年待ちの状態です。一足の靴下からひとつずつ生まれるソックモンキー「おのくん」は、宮城県東松島市にある小野駅前応急仮設住宅で暮らす武田文子さんをリーダーに、20人ほどの女性が手作りしています。

    いつも寄り添ってくれる「おのくん」

    「以前は縫製の仕事をしていたのですが、あの津波で家も仕事場もなにもかも流されてしまいました。」そんな武田さんがなによりも辛かったのは「ひまで何もすることがないことだった」と、当時の気持ちを語りました。先行きの不安を抱えて、悪いことばかり考えてしまう状態が続いたそうです。仮設住宅の集会所に集まって、みんなでなにかやらなきゃ、と考えていましたが、仮設住宅としては後発だったので、思いつくような手芸品はすべてほかの場所で作られていて、なかなかこれだというものが見つかりませんでした。

    そんなとき、仲間の一人がひとつの人形を持ってきました。ソックモンキーと呼ばれるその人形は、靴下を利用して作るぬいぐるみで、埼玉の方が送ってくれた支援物資に入っていたそうです。抱っこすると柔らかな感触が温かく、見ていると思わず肩の力が抜ける不思議な魅力がある人形でした。「可愛いねえ、材料は靴下とワタだし、私たちにも作れるのではないかしら」と武田さんはすぐに思いました。さっそく、埼玉のお送り主に連絡して「作り方を教えに東松島まできてくれませんか」とお願いをしました。そして、依頼に応じで足を運んでくれた男性を囲み、20人ほどの人がソックモンキーの作り方を教わりました。2012年4月のことです。東日本大震災から1年以上が過ぎようとしていました。 この人形に「おのくん」と命名したのは武田さんです。

    ハイカラな名前もいいけれど、小野駅前の仮設住宅だから、わかりやすくシンプルに「おのくん」だね、ということですぐに決定。自然体で気取らない、いつもそばに寄り添って慰めてくれる「おのくん」。それはもう「おのくん」という以外の呼び方は考えられないほどぴったりの名前になりました。

    東松島市小野駅前の仮設住宅地にある「おのくんハウス」

    簡単そうに見えたおのくん作りは、思った以上に手間がかかり、みんな「めんどくしぇ(面倒くさ~い)」といいながら、一所懸命に取り組みました。照れ屋で口下手の東松島の人は、言いたいことと反対の言葉を口に出すことがよくあるのだとか。「めんどくしぇ」の言葉には、手間のかかる子ほど可愛いという愛情や、みなさんの支援に感謝しながら素直に言えないありがとうなど、いろいろな気持ちが込められています。

    先生に教わりながら苦労して作った「おのくん」第一号。その日、小学校5年生の女の子が作った青い胴体にピンクの頭の作品が、記念すべき初代おのくん、として大事にされています。不揃いな針目にはなんとも言えない味わいがあり、これぞ世界にひとつだけという存在感です。カラフルな靴下で作られる「おのくん」はバリエーション豊かで、どれも個性的ですが、この青とピンクの配色がみんなを代表するキャラクター「おのくん」のもとになっています。

    「おのくん」人気は、口コミでじわじわと広まっていましたが、その存在が一躍有名になったのは2013年に放送されたテレビドラマがきっかけでした。全国各地から「おのくんがほしい」という問い合わせがきました。遠方からのニーズに対応するためFAXの注文も受けるようになりましたが、もともと、東松島市の現状を全国のみなさんに見に来てほしい、とはじめた「おのくん」作り。できれば「おのくんハウス」まで会いに来て、お気に入りを見つけてほしい、というのが武田さんたちの願いです。

    手作りでできる個数には限界があるので、注文は半年待ちの状態ですが、今日も「おのくんハウス」には、来てくれるお客さまのためにいくつかの「おのくん」が待っています。 「おのくん」はひとつ1080円。大小にかかわらず同じ値段です。もっとも、「おのくん」は商品というより、愛情を注いで育てた生き物のような扱いなので、売るとか買うとかという言葉を使いません。買うといわずに「里親になる」というのです。これまで里子に行った「おのくん」は約2万体。里親さんたちは独自にサイトを作って「おのくん」自慢をしあいながら交流を深めているそうです。

    作業場を兼ねる「おのくんハウス」では、今日もメンバーの女性たちがミシンを踏み続けています。震災から4年が過ぎ、仮設住宅を出る人も増えました。今ではわざわざ遠くから通ってくる人、材料を持ち帰って自宅で作業をする人など関わり方は様々です。作業場の片隅には、「おのくんになりてえ」と書かれた箱があり、中には色とりどりの新品の靴下が早く縫ってとばかりに出番を待っています。

    里親になるだけでなく、新品の靴下やワタなどの材料を提供することでも「おのくん」支援ができます。とくに靴下は、手頃な値段でカラフルな色柄のものを探すのがたいへんで、「ときには500円、600円の靴下をわざわざ買って使うこともこともあります。」材料費を差し引くと、ほとんど利益がでないことも。注文が殺到しても、材料代がかさむ上、手作りなので大量に作ることができない、と外からは見えない苦労が山積です。 それでも、「おのくん」に会いに来てくれる人たちとの日々の触れ合いが、武田さんたちを勇気づけてくれます。取材した日には、仙台市若林区から10名ほどの人が訪れ、できたばかりの「おのくん」たちを大事そうに抱いて帰りました。「私たちも仮設住宅から来ました。「おのくん」が寂しい部屋をにぎやかにしてくれると思います。」と帰っていく姿が印象的でした。

    「今は作業する場やさまざまな支援があって、やっとなりたっている「おのくん」プロジェクトですが、仮設住宅はやがてなくなります。」今後は、今の「おのくんハウス」に変わる、新たな復興拠点を作ることが目標です。名前もすでに「空の駅」と決まっています。東松島が航空自衛隊の基地がある空の町であることにちなんだ名称。現在、建設資金の募金協力を呼びかけ中。→空の駅プロジェクト募金 今年5月30日には、震災以来不通だった仙石線高城町と陸前小野間の運転が再開される予定です。その日までに「空の駅」建設を実現することは、とても無理だけれど、仮設のテントを設営し「おのくん」のキャクターにも活躍してもらってイベントをしたいと考えています。

    めんどくしぇ、といいながら「おのくん」とともに、一歩ずつ明日に向かって歩みを続ける武田さんたち、東松島小野駅前郷プロジェクトの奮闘が続きます。

    2015年3月時点での情報です。

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