塩竈 |「ビルド・フルーガス」アートの力で地域と人々を元気にするアートプロジェクト

    アートを通じた支援活動を精力的に展開する、ビルド・フルーガス代表の高田彩さん

    港町・宮城県塩竈市を拠点とするアートスペース「ビルド・フルーガス」。若手や気鋭のアーティストの展示のみならず、ワークショップやライブイベントなど、多彩なアート・ムーブメントを展開し、全国から注目を集めるギャラリーです。

     代表の高田彩さんは、塩竈生まれの塩竈育ち。カナダ・バンクーバーの美術大学でアートを学び、アートが持つ力に魅せられた高田さんは、「アートの力を借りて、楽しく豊かな社会にしたい」との思いをこめ、2006年に「ビルド・フルーガス」を立ち上げました。

    アートの力で地域を元気に!

    アートと地域の関わりを深める活動も精力的に行ない、なかでも2007年からスタートした「飛びだすビルド!のワークショップ」は、さまざまな地域の幼稚園や文化施設にアーティストが訪れ、子ども達にアートを楽しんでもらうというものです。

    例えば「コラージュネクタイ」は、カラフルなハギレやボタン、ビーズなどをネクタイ型の台紙に思い思いに貼り付けます。子どもにとってはさまざまな素材にふれる機会に、お父さんは普段なら付けられない遊び心たっぷりのネクタイを作ったり。ユニークな感性あふれるアーティストならではのワークショップは、子どもも大人も夢中なりました。

    東日本大震災が起き、ギャラリーは1階が浸水。自身も被災しながらも、気にかかったのは、ワークショップで出会った子ども達のことでした。そして高田さんは、震災前に訪れた幼稚園などに支援物資を届けながら、まもなく「飛びだすビルド!のワークショップ」の活動を再開させたのです。

    ほどなくして、市の行政から「アートで子ども達を元気できないだろうか?」と相談を受けました。それに応えるかたちで「飛びだすビルド!のワークショップ」はさらに活動の場を増加。月に3~4本ものワークショップを開き、遠くは気仙沼まで足を運びました。「“アートならビルド”と頼ってもらえて、アートに携わる私達にも地域での役割があると実感できたのは、とてもうれしいことでした」と語る高田さん。活動を続けていく自信にもつながったそうです。

    段ボールがアート作品に

    高田さんとアーティスト仲間達は、限られた環境や材料を駆使し、お絵かきやダンス、映画上映会など、アートな楽しいワークショップを行いました。「子ども達はとにかく元気! 目の前で起こることに素直に反応して楽しんでくれます」。いつもより元気な笑顔を見せる子ども達の姿に、保育士さんたちもホッと安心した顔を見せてくれました。

    また、震災直後に訪れた各地の避難所では、届けられた支援物資が無機質な段ボール箱に入ったまま雑然と置かれている光景をたくさん目にしました。そこで高田さんは知人のアーティストに呼びかけ、段ボール箱にアーティスト自身がカラフルなペイントをほどこし、瓦礫撤去のボランティア作業に参加しながら作った箱を被災地に届けにいく活動「はこび(箱美)」をスタート。「避難所をほんの少しでも明るくしたい」というアーティスト達の思いを形にし、被災地に届けました。

    2013年にはフランスの著名なアーティスト、ジョルジュ・ルースを招聘し、「ジョルジュ・ルース アートプロジェクト in 宮城」に取り組みました。かつて松島湾を見晴らすカフェとして親しまれた白亜のモダンな建物。それを取り壊す前に絵を描き、写真を撮り、空間の記憶を残そうというものです。ルース氏とボランティアスタッフは建物の壁や床に青と白の対の星を描き、解体直前の建物の空間に、忘れ得ない記憶を吹き込みました。

    また2013年5月からは、新たに「つながる湾プロジェクト」がスタート。これは、海辺の街に暮らす人々が、自分達が生まれ育った湾の文化を再発見し、後の世代に記憶をつないでいこう、という取り組みです。松島湾域に暮らす人々や、湾に興味がある仙台圏の人々が集い、定期的に勉強会を開き、海の街に残る歴史や文化について学んでいます。「まだプロジェクトはスタートしたばかり。私も生まれ育った塩竈の街を再発見しながら、プロジェクトとともに歩んでいるところです。長い目で見て、地域を愛する人を育てていくプロジェクトになればいいですね」。

    アートを、そして地域を愛する高田さんの取り組みは、これからも人々の心をつなぎ、街に新たな活気を生み出していくことでしょう。

    2014年8月時点での情報です。

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